いまを生きる

◎ニールとトッド

 

「どもりじゃないんだから」

トッドの転校初日。ニールは早い段階でトッドが抱えてる悩みを汲み取っているというか。決して笑わない。きっと期待されることのプレッシャーや重圧を知っているからだろうか。でもその問題を重く考えず「君は大きな悩みを抱えているようだね」と笑いながら軽く流す。でもトッドも、成績優秀、クラスのみんなから慕われてるニールが大きな問題を抱えていること、それもトッドと同じような家族の問題を抱えてることを転校初日に知る。これはトッドにとってニールは心を寄せやすい相手だったんじゃないかなと思う。だからこそ「そんなことしない方がいいよ」と。

 

私が分かった限りでは、

キーティングの最初の授業であまり近付いて来ようとしないトッドにおいでと視線を送ったり、洞窟のシーンでもトッドを心配している様子が見えたり、教室の机に立つシーン、順応性について学ぶシーンで目を合わせたり。トッドが教室で詩を読むシーンでは、他の生徒は興味深そうに聞いてるのに対して、ニールは応援の眼差しというか真剣な表情をしていて一番に立ち上がってトッドに拍手を送る。ニール自身、トッドにいてほしいから・変わってほしいからいろいろなアドバイスを送ったり、トッドが落ち込んだ時には励ましたり。ニールにとってもトッドは大切な一人であったんだろう。

永田くんも“トッドが変わったのはニールとキーティングのおかげ”と話している通り、このニールとトッドの関係性の変化、そしてトッドの変化に繋がっていくのが最高に好き。

 

そして洞窟でトッドが自作の詩を読む、暗闇の中から光を見つけたような希望・生の詩。一方のニールは光を見たもののこれは全て夢だったと絶望・そして死に向かう。この対比が切なくて、悲しくて。

 

トッドは一つの詩を長い時間をかけて書いていた。詩の課題が出された時から書いていた詩。心を開いたからこそ出来た詩。自分を表現するのが苦手なのに“書きたくなったから書いた”詩。自分で書いたこの詩をどうしてもニールに読んでほしくて、ニールの帰りを待ちわびていたのに。ずっと詩を書いた紙を離さなかった。「ニールは芝居を愛してた」とその紙を見ながら呟く。

 

トッドはニールが死を選んだ原因の多くはニールの父親にあると思っている。サインを求められるシーン、映画ではトッドの両親そして校長先生の3人だが、舞台ではニールの父と校長先生の2人。ニールの死の原因であるペリー氏に「キーティングなんかどうでもいい、早くサインをしなさい。」と言われることがトッドにとってどれだけ苦痛だったのだろうか。

 

 

 

◎ニールの変化

 

ダルトンはニールのことを天才だと言った。でもきっとニールは何でも器用にこなす様に見えて影ですごく努力をしてきた人間だと思う。それは両親のため。「親の期待にはいつだって答えてきた」。裕福な家庭でもないし、父親(パンフにある裏設定ね)の事も聞かされて育ったのかもしれない。ペリー氏がルームメイトであるトッドに「息子が道を踏み外さないようによろしく頼む」と言うくらい、親が決めた道を歩んできたと自分で話すくらい、自分のやりたいことを心に潜めながらも牢屋に閉じこもるような生活をしていた。両親に幸せになってもらいたくて、ニールはきっと頑張っていた。

きっとニールはこれが父親からの愛情と分かっていながらも、自分の自分の人生を思うように生きれないことに何か思うことはあっただろう。父親があんな感じだからクラスでは周りに優しく、正しいことは何なのか見極めることの出来る自分でいたいと思っているんだと思う。

 

そんな中、キーティングに出会い、詩に出会い人生を変えていく。洞窟の中でニールが読む詩。

Invictusラテン語:不屈)

私を覆う漆黒の夜
鉄格子にひそむ奈落の闇
どんな神であれ感謝する
我が負けざる魂に

無惨な状況においてさえ
私はひるみも叫びもしなかった
運命に打ちのめされ
血を流そうと決して頭(こうべ)は垂れまい

激しい怒りと涙の彼方には
恐ろしい死だけが迫る
だが長きにわたる脅しを受けてなお
私は何ひとつ恐れはしない

門がいかに狭かろうと
いかなる罰に苦しめられようと
私は我が運命の支配者
我が魂の指揮官なのだ

 

「僕が運命の支配者だ!」

で終わるこのシーンは、詩集を大事そうに胸に抱えて走ってハケて終わる。この詩はきっとニールの人生を表す詩でもあると思う。この先に起こることをすでに予言しているかのような。

この時ニールはきっと、親のために生きるのではなく、自分のために今を生きることは間違ってはいないということをこの詩を通して知るのではないか。キーティングにも同じようなことを言われるよね。

 

そこからの芝居に情熱を向けるシーン、めちゃくちゃ好き。「ああ…これだ…」本当に嬉しそうで、芝居が出来ることへの嬉しさを噛み締めているのめちゃくちゃかわいいよね。パックのセリフを練習するシーンなんか本当に生き生きしていて、真夏の夜の夢が終わった後も本当に嬉しそうな顔をしていて。

 

キーティングに「もっと楽な方法はないんですか」 と聞くシーン、多分ニールはどれだけ説得しても父親が反対することは分かっている。父親に反抗してまでもやりたかったことだったんだろうな。父親をギャフンと言われせるような演技をしてやろう!みたいな気持ちもなかったはずだし父親が観に来ることをそもそも知らなかった可能性だってある。ただ純粋に芝居をしたかった、愛していた。

 

「激しい怒りと涙の彼方には
恐ろしい死だけが迫る」

ペリー氏の怒りとニールの涙。

「あなたがお許しくだされば

全てうまくおさまります」

真夏の夜の夢の劇中、このセリフはいつも父親に向かって語りかけているように見える。もしかしたら芝居をすることを許してくれるかもしれないと希望の気持ちもあったのかもしれないな。

 

最期のシーンで苦しみや悲しみ、恐怖、解放とか葛藤とか、たくさんの言葉に出来ない感情やニールが背負っていたものが見えてしまうというか。あの選択のほかに方法はなかったのか、なぜこの選択を選んでしまったのか。きっとこれはニールにしか分からないけれどあの時のニールはああするしかなかったんだろうな。
 

 

いまを生きる、深いお話だなあ…